喫煙習慣の本質がニコチン中毒にあることはわかったとして、じゃぁなぜあんな、火をつけてその煙を吸い込むという、はた迷惑な方法が採られているのであろうか。その答えは、ニコチンの摂取スピードにある。
タバコに火を付けてから、ニコチンが脳に達して満足感をもたらすまで、どれくらい時間がかかるかご存じだろうか。
1分? 3分? 5分?
特別に知識のない非喫煙者なら、およそこれくらいの数字を出すのではないだろうか。
喫煙者のみなさん、いかがですか? タバコに火を付けて、一服めを吸い込んでから、その効果を感じるまでの時間はどれくらいですか?
そう、その時間は、なんとわずか数秒なのである。
煙を吸うというのはつまり、煙に含まれるニコチンを、肺から摂取する、ということである。人体の血流の経路をご記憶だろうか。
心臓→動脈→(全身)→静脈→心臓→肺動脈→肺→肺静脈→心臓
である。(全身)が最初と最後に来るように書き直すと、
(全身)→静脈→心臓→肺動脈→肺→肺静脈→心臓→動脈→(全身)
おわかりだろうか。脳は当然全身に含まれる。静脈からスタートすると、脳に至るまでに心臓を二回通るが、肺からスタートすると心臓は一回しか通らない。それだけ脳に近い、ということである。つまり、肺からの摂取は、何と静脈注射よりも早い効果をもたらすのである。
この、圧倒的な摂取スピード、これこそが喫煙が廃れない理由である。経口など、他のニコチン摂取手段が開発されたとしても(というか既に医療用には開発されているのだが)、その満足感は、スピードの点で「喫煙」にとても及ばないはずである。
岩城 保
iwaki@letre.co.jp