『雨が来る』日記

第5週 9月15日(日)〜9月21日(土)

『雨が来る』日記のトップに戻る
トップページに戻る

第4週←         →第6週


09/15/2002(日)

なおちゃん、いよいよ今週は、本番が始まります。

きょうも、「まいて通し」、「通し稽古」、「通し稽古」でした。本番中も「まいて通し」は毎日やるそうです。

ラストの、車椅子を見て、登を見て恥ずかしくて笑って、また車椅子を見るというところは、タイミングの変更が何度かありました。いまのところ:

Digging up the dead with a shovel and a pick
It's a job, it's a job
Bloody moon rising with a plague and a flood
Join the mob, join the mob
It's all over,
(空を見るのをやめる)
it's all over, it's all over
(登を見て、野菜炒めをまた食べはじめる)
There's a leak, there's a leak, in the boiler room
The poor, the lame, the blind
(ビールを見る)
Who are the ones that we kept in charge?
(箸を置き、缶をあける)
Killers, thieves, and lawyers
(背中を背もたれに預け、車椅子を見る)
God's away, God's away, God's away
On Business.
Business.
(登を見て、恥ずかしくて笑う)
God's away, God's away, On Business. Business.
(再度、車椅子を見る)

こういう、段取りのことばっか言ってると、歌詞でキッカケ取ったり、間で数を数えたりって、内面的なことはなんにもないの?って言われそうです。なくってもかまわないと思っていますが、ないわけじゃないです。でも内面からわき出る感情ってったって、そのとき何が見えているか、何が聞こえて、どんなにおいがしているか、というような外部の状況とか全部関係してわき出てきてるんだと思うんです。人生ではそれを無意識に感じ取っている。演技でやるときはそういうことを意識的にやる。だからこういう「外堀から埋める」みたいな作り方でいいと思っています。

衣裳が、すっかり決まりました。カットソーにスパッツって、身体の線が出るしそうとう恥ずかしいんだけど、
「これ、人前に出ていい格好かなぁ?」
と言ったら、みのすけさんが、
「そういう人よくいるでしょ、お祭りとかで」
ってそれはちょっとちがうと思う……。手持ちのアクセサリーやソックスを持っていった中から、赤堀さんが、ネックレス、指輪、イヤリングを選び、ソックスはこれと紫のを選び、
「これで、あと、口紅を赤く」
と言われて、そういうの全部身に付けて通し稽古をやりました。特に動きにくいとかやりにくいところはなかったです。でも、どういうふうに見えてるのかってこともぜんぜんわからないので、赤堀さんの目を信頼しているけれども、やっぱりちょっと不安です。

赤堀さんは、細かいことをいろいろ言ってきましたが舞台で俳優が楽しんでもらうのが一番で、そっち側(舞台)に行ってその場で、指示されたことよりこっちがいいやって思えばそうしてもらってかまわない、と言います。それ的なことできょうダメ出しされたことがあります。安部(日比さん)にケーキを渡して美紀(新井さん)と誠(多門さん)が出ていく、その後、私が日比さんに、
「食べて」
と言う。その前の間がきょうは長すぎて日比さんがだいぶ待ってしまったように見えた、と言われたとき、特にいつもと変えた自覚はなく(多門さんがはけてから何拍、というふうに決めていました)、
「主観的には、同じにやっているんですけど…」
と言ったら、その場で起こることは毎回ちがうから、私のもともとのプランでは合わなくなってしまうから、ここは日比さんに合わせないといけないと言われました。それはそうだよね。青年団の作り方だったらこういうとき多門さんでカウントしても日比さんでカウントしてもたぶん大丈夫なんだけど、その二人の演技が一定していないんだったらはけちゃった多門さんじゃなくて舞台上にいる日比さんに合わせて演技すべきです、当然。ちょっとかたくなになっていたかもしれない、反省しました。他の「間」のところでも、相手役を無視しすぎているところが、たぶんあります。あした、直そう。

3場の終わりのVサインの出し方が細かく決まりました。目があって笑う、肘を半ば曲げた状態でグーを出す、Vにする、笑いを大きくすると同時にVの腕をほぼ伸ばす、です。この、Vサインを出すってのをやっていて気づいたんですけど、私、左手であんまりうまくVサインが出せません。昔階段から落ちて突き指した薬指がうまく曲がらないんです。あれ、親指で押さえたら……、あ、できました。やった、明日からこれでバッチリです。

ラスト近くの、登の目を見ないで野菜炒めを食べるところは、
「目をあげたら泣いてしまいそう、というのを、やっぱりちょっと意識してやってみてください」
と言われ、2度めの通しでそういうふうにしてみたら、そっちのほうがいい、もうちょっとやってもいいかもしれない、ということになり、明日、もうちょっとあざとくやってみることになりました。

稽古の後、黒田くんと二人で、明日からアゴラで公演の五反田団の仕込みを少し手伝いに行きました。終電で帰宅。


09/16/2002(月)

劇場入り前の、最後の稽古。稽古の後、何人かで焼き肉を食べに行きました。


09/17/2002(火)

きょうは、仕込みの日です。シャンプーの人は、9時集合。客演陣は夕方6時入りですが、私は『東京ノート』の稽古があり、朝から富士見へ行きました。まず、俳優だけで自主稽古をして、その後2時から公開通し稽古というスケジュール。私のいないシーンはもう前の日に稽古がすんでいて、だからきょうの自主稽古は、私の出てるとこばっかしずーっと稽古でした。

その自主稽古のときに、シーンの内容とまったく関係なくポロポロ涙が出てきちゃう、ということが2度ありました。私、自分でも驚きましたが、相手役はそりゃそりゃビックリしてました。たぶんシャンプーと青年団の作り方のちがいに関係があるんだろうと思いましたが、そのときはよく理由がわかりませんでした。

青年団だと、間とか、台詞の言い方、声の大きさ、速度など、稽古の割と早い段階で細かく決めていきます。それで、『東京ノート』くらいたくさん稽古・本番を繰り返していると、相手も自分もその辺のブレがほとんどありません。シャンプーでの演技だとそこまで再現性がなくて、その場、その場の相手の出方に合わせていく部分があります。シャンプーの作り方もおもしろいしがんばってついてってるんだけど、たぶん、自分の劇団の、おんなじ方法論を共有してる人たちと久しぶりに向き合ったら、安心して泣けてきちゃった、んでしょうかね。甘えっ子ですね。

青年団秋山くんのマルセイユ日記を読んでもそう思うんですけど、自分のホームグラウンドじゃないところで演劇を作ることによって、普段自分がどういうふうな作り方をしているかがわかってくる部分があります。普段やってる作業を、相対化して客観的に見れる。青年団も外部出演も、どっちもいまの私は大切にしたいです。

で、午後6時にスズナリに行くと、もうセットがすっかり建っていました。スズナリの楽屋は2つあって、たぶん1つが四畳半、もう1つが6畳です。男女で分ける場合が多いんだと思うけど、今回女子は新井さんと私の二人だけなので、4畳半が客演4人、6畳がシャンプーメンバー、という楽屋割り。私たちの楽屋の中央をパネルと黒幕で仕切ってくれてあったんだけど、なんか狭いので、とっぱらっちゃって、元押し入れ部分に黒幕を吊って女の人はその中で着替えることにしました。

ざーっと「まいて」通した後、場当たり。青年団の場当たりは、場当たりといってもあんまり途中省略しないでやっていく場合が多いけど、きょうのシャンプーの場当たりは、ホントに出はけだけでした。普通、こうなんだよね? そして、青年団だと衣裳を着てやるけど、シャンプーの場当たりは、衣裳は必要ないと言われました。懸念の「暗転板付き」の練習は、明日です。うまくできるかな。うまくやりますとも。


09/18/2002(水)

とうとう初日です。きのうそんなに飲んだわけじゃないのに、朝起きたらめまいがして、12時半のキッカケ合わせ開始に合わせて12時過ぎに劇場入りしたんだけど、体温調節がうまくいかないような変な感じで、しばらくぼんやりしていました。いくら稽古とかがんばっても公演当日に体調崩したらなんにもならない。この2、3日なんとなく調子が悪かったのにあまり用心してなかった自分を反省すると同時に、生身の人間が現場に行かないと成り立たない演劇ってものについて考えました。

劇場に慣れておこうってって普通は舞台上で動線確認とかするんだけど、今回私はこたつに座ったまま一歩も動かないので、定位置にしばらく座ってみたり、座布団の位置を確認したり。キッカケ合わせは予定より遅れて1時から開始になり、心配していた暗転板付きも、あちこちに蓄光テープが貼ってあるので楽勝でした。青年団の公演ではいわゆる「舞台監督」という役割がないので、舞台監督が主導権をとって音響、照明の人にキューを出したり演出家に確認をとったりしながら進めていく、こういう稽古(?)の雰囲気は、私にはものめずらしかったです。

4時から、ゲネプロ。安部が飛び降りるところは「いままででいちばん良かった」けど野菜炒めのところは、「冷静すぎる」。あとで赤堀さんに、
「でも泣いちゃったらダメなんだよね」
と聞いたら、
「泣いちゃってもいいです。それをこらえようとしてくれれば」
ということだったので、泣いたら泣いたで泣いちゃえと思い、相手役の児玉さんには一応事前に、
「ラスト、ホントに泣いちゃうかもしれない」
って断っておきました。だって、北島マヤちゃんじゃないんだし、本番でいきなりちがうことして驚かせたら悪いですからね。

日比さんの飛び降り(エアコンの室外機からベランダの手すりに登り、飛び降りる)は、いままで稽古場では「はい、飛び降りました」みたいな、仮の動きだったので、劇場入りしてセットの中で、空に向かって傘を広げていた人が飛び降りてふっと視界から消える、というのをきょう見て、「こういうことだったのかー!」と初めて理解したように思います。だから、日比さんが飛び降りてから児玉さんが入ってくるまでの「間」のシーンの演技を私がちゃんと作ったのは、きのう、きょう、ということになります。稽古場ではぜんぜんダメだったんだと思うけど、赤堀さんが何も言わなかったのは、どうしてなんでしょうね。ここは劇場に入ってからだ、って思ってたんでしょうか。

19:30本番1。けっこう客席が笑っている。ラストは、自分としてはあざといくらいやったんだけど(涙を流しはしませんでしたが)、あとで赤堀さんに聞いたら、すごくよかったとのことでした。

ところで、私以外の人たちは、稽古場であまり小道具の実物を使わないで稽古してきていたわけですけど、ケーキを箱から出してそれぞれの皿に載せるとか、箸を配るとか、ケーキのセロハンを決まったポイントまでに外すとか、児玉さんがなんなくこなしているのを見て、すごいなーと思いました。「無対象」で稽古していても本番がちゃんとできる人っているんですね。私だったら、使って稽古してきてないということですでに緊張してしまいます、きっと。


09/19/2002(木)

朝9時から富士見市(埼玉県)で『東京ノート』の稽古があり、家を出たのは7時すぎ。13時に稽古が終わり、家に帰るのも中途半端なので、そのままスズナリに行って楽屋でごろごろ休みました。オレンジと緑に塗り分けた電車のドアに手を挟まれて抜けないという夢を見て目覚めたら、左のひじが右腕を圧迫していました。

キャスト全員が揃うのを待ち、5時半から「まいて通し」。途中、きのうこうこうだったけどこうしてほしい、という赤堀さんの指示が入るのはいつものとおり。野菜炒めのところについては、まだ弱いということで、涙がこぼれるくらいにやってほしいと言われました。それと、ラストの2度めに車椅子を見るところがまだ不明確なので、もっと明確に見るようにということも言われました。

寝起きで通したので、私は、まだ声が変でした。開場前、もうだれもいない舞台で歌を歌っていたら、福田さんに、
「それは次の舞台の練習ですか」
と聞かれました。
「いえ、いつも歌うんですよ」
「そうやって気分を盛り上げるんですか」
「いやいや、発声練習。台詞言うの、はずかしいから」

公演は、落ち着いて「いま、ここ」を大事にしてできたように思います。ラストも、しっかり車椅子を見れた。ただ、野菜炒めのところは、自分としてはあざとすぎるんじゃないかと思ったのですが、あとで赤堀さんに聞くと、あれがベスト、あのくらいやらないとお客さんにわからない、でもこれをなぞらないでまたやってほしい、とのことでした。


09/20/2002(金)

きょうも『東京ノート』の稽古がありました。渡欧前の最後の稽古だったので、いままで稽古していた富士見の劇場から荷物を全部引き上げました。先発隊の人は、あした出発です。『東京ノート』を一緒にやっている人たちにはぜひぜひシャンプーの公演を観てほしいけど、出発前の忙しい時期なので、なかなか無理そう。残念です。

時間通りに劇場に入って、「まいて通し」ているうちになんだか鼻声になってきてビックリしました。風邪? 点鼻薬を買ってきて、鼻水が出たら困るから舞台上にポケットティッシュもひそかにスタンバイしました。ポケットのない衣装なので。

そんな心配はありがたいことに杞憂に終わりましたけど、ホントに、演劇って、生身の人間の体調とかにもこんなに左右される芸術形式なのね。俳優は健康に気をつけろってことでもなくて、なんていうんだろうか、人間の肉体という脆弱なものにこんなに依存してて大丈夫なの?みたいなことなんだけど、でもそんなこと言ったら、スポーツとか、アイドルのコンサートとか、もっとそうか……。

観ている側からしたらそれほどちがいはなかったんだと思うけれど、きょうの私は、
「あ、この台詞、言い方がちがっちゃった」
「あ、ここで多門さんを見るはずだったのに、見ないじゃった」
と内部でひそかに動揺したところがありました。

打ち上げで最初のビール1杯しか飲まなかったら、飲んで酔っていくまわりとうまく一緒に楽しめませんでした。


09/21/2002(土)

なおちゃん、

きょうから3日間、1日2回公演の日が続きます。きょうは、CSの撮影で、昼も夜もカメラが入っていました。客席最後列からの撮影なので、ほとんど気になりませんでしたが。

ダメ出しで、
「すいません」
と連呼して泣く安部に、祈祷師も来てくれたしもう治るから大丈夫だというところの、言い出しも、台詞の途中も、ちょっと間を短くするように言われ、そうしたら、言うときの姿勢も自然と変わったのがおもしろかったです。いままで、自分が台詞を言いやすいように、自分だけの勝手な都合で間をとっていたのかもしれないなー、ここは、と思いました。

公演期間中、毎日打ち上げ会場が取ってあって、参加は自由なんだけどいままで毎日顔だけは出してました。でもさすがにきょうはもう疲れちゃって、まっすぐ帰ってきました。


第4週←         →第6週


『雨が来る』日記のトップに戻る
トップページに戻る