Perfume「エレクトロ・ワールド」の照明について

なんだか、ブログ開設早々、原発の話ばっかりで、雰囲気が暗くなってしまったので、違う話題を書こうと思います。

僕は、芸能やスポーツにはまったく「うとい」のですが、Perfumeだけは、諸般の事情があって、実はわりと詳しいのです。CDやDVDもかなり所持しています。今回は、ツイッターで以前「エレワの照明」と題して連続ツイートした、Perfumeのライブの照明の解説を、再構成してアップしてみようと思います。

以下、主に、Perfumeの「GAMEツアーDVD」および「武道館ライブDVD」の中に含まれる曲、「エレクトロ・ワールド」の照明について解説しています。DVDをお持ちでない方は、YouTubeとかで「エレクトロ・ワールド」とかで検索していただくと、DVDに収録されているものに近い動画を閲覧出来るかもしれません。いずれにしてもこの文は、「エレクトロ・ワールド」の映像を見ながら読んでいただくことが前提の内容になっていますので、どうかその点、ご承知おき下さい。

さて、収録されたライブの「照明」を見ようとする時に、はたして何を見れば良いのか。光源(ライト)が画面に映り込んでいるものは、まあ見ればわかります。しかし、映像から照明を分析する際のキモは、光源が映り込んでいなくて、到達している光だけを見て、光源の位置などを類推することにあります。

GAMEツアーDVDの「エレクトロ・ワールド」を、照明に注意しながら細かく見てみましょう。

1コーラス目の歌い出しのところ、「この道を走り〜最後で最後最後だ」は、Perfumeにどこから光があたっているか、わかりますか? なお、ライブの照明は会場によって違うので、あくまで「GAMEツアーのDVD」で見て下さいね。

歌い出しは、のっちが右(舞台用語で言う上手=かみて)を向いているアップです。そこで、マイクを持った手の影が顔に出ているのがわかります。影は光源と逆方向に出るので、ということは、上手のほぼ真横に光源がある、ということがわかります。「振り返るとそこに~」のあたりで正面を向いた時には、たしかに顔の上手半分が明るく見えています。

またその部分をよく見ると、上半身=顔や腕に比べ、脚はずいぶん暗く落ちていることがわかります。つまり、上手の真横からの光は、Perfumeの上半身だけを狙ってあてられているのです。これにより、宙に浮いているような幻想的な雰囲気を出しているんですね。

もちろん、ここでの照明は上手の真横だけではありません。他にも、後や上からの青い光、その他様々な光が合成されて美しいシーンを構成しています。ただ、あまり細かいところまで画面で見分けるのは無理なので、この場ではわかりやすい光のみに注目していくことにしましょう。

数多く点灯している照明の中で、最も見分けやすいのは「ピンスポット」(略して「ピン」という)だと思います。ピンスポットは、キャストの正面から丸くあてて人が操作して追っかけて動くライトです。舞台照明を誇張して表現するときによく例にされるやつですね。このPerfumeのライブでも、ピンスポットは使われています。ではこの「エレクトロ・ワールド」ではどうかというと、最初の歌い出しの部分ではまだピンは消えています。

ところで、ピンスポットは、その丸い光の形が印象的ですが、その目的は丸い光の形ではなく、とにかく「明るい」光を得ることです。ピンスポットはほとんどの場合、その会場で「最も明るい」照明機材です。この「エレクトロ・ワールド」では、歌詞の「エレクトロ・ワールド」の「ワー」の音と同時にピンスポットが見事にカットインしています。

ピンスポットの光はとても強いので、これがあたると顔がパッと明るくなります。DVDの映像ではカメラアングルも同時に切り替わっているので気づきにくいかもしれませんが、「エレクトロ」から「ワールド」への瞬間に、三人の顔が、パッと明るくなっています。これが「ピン」の光です。

ピンスポットは光に色をつけることもできます。具体的には、ピンスポットの操作者が、カラーフィルターを手に持って、ライトの前にかざすのです。この「エレクトロ・ワールド」で言うと、歌詞の「落ちる僕の手にひらりと」の次の間奏でピンスポットの光が赤くなっています。そして次の「本当のことに」の歌でまたナマのピンになっています。わかるでしょうか。

そのあと2回ある「ああ あああ~oh yeh エレクトロ・ワールド」の部分もピンスポットが赤い光になっています。続く「見えるものの~たしかにいるよ」の所は、映像ではちょっと色の判別が難しいですが、おそらくピンは薄い紫で照らしてるんじゃないかと思います。

次の「この道を走り進み進み」から「最後最後だ エレクトロ・」まで黄色、次の「ワールド」で、また白(ナマ)のピンになっています。ピンはたぶん3台(Perfume一人に一本)で、計3人の操作者でやってると思うのですが、タイミングが実に見事に合っていますね。

「僕の手にひらりと…」のリフレインでピンは再び黄色になり「もうすぐ 消える」まで黄色、いや厳密には、次の最後の「エレクトロ・ワールド」の、「エ」まで黄色で、「レクトロ」で一瞬赤になり、すぐピンがカットアウト。「ワールド」では三人の顔がフッと暗くなっています。

以上、「エレクトロ・ワールド」のピンについて、細かく見てみました。

ところで、舞台照明では、大きく分けて二種類の光源が使われています。一つはハロゲンなどの「白熱系」ランプ、もう一つはクセノンなどの「放電系」のランプです。白熱系は電源電圧をコントロールしてランプそのものを点灯/消灯させてコントロールしますが、放電系ランプはそれが出来ません。

放電系の器具は、機械的なシャッターにより光を出したり消したりしており、内部のランプはつきっぱなしです。なので、白熱系は緩やかな光量変化を得意とするのに対し、放電系はカットイン/カットアウトが得意です。なお、前述のピンスポットは、光源の種別で言うと、放電系ランプのほうに属します。

白熱系ランプと放電系ランプの違いを見ることができる例として、GAMEツアーDVDと武道館DVD、それぞれの、「エレクトロ・ワールド」のイントロを見比べてみてください。

GAMEツアーのほうは、イントロで、逆光で三つの光がチカチカと点滅しています。こういう点滅は放電系の特徴です。一方武道館DVDでは、歌の冒頭フレーズ中に逆光の光が右から左に流れています。これは白熱系の光源です。明るさが緩やかに変化して波のような効果を生んでいます。

実際の舞台照明業務では、照明機材は「ムービング」「一般照明」「ピンスポット」の三種に分類するのが普通です。「ムービング」は放電系の光源で、モーターで向きが動くライト、「ピンスポット」は前述の通り、人が操作して動かすとても明るいライト、「一般照明」はそれ以外の、固定的に設置された白熱系光源の機材を指します。

一般照明は、要するに「昔からある普通の機材」です。これは、安価に大量に導入することができます。一方ムービングライトは、一台で向き・色・柄(GOBO)などを遠隔操作で自在に変えることが出来る、精密機器です。Perfumeのライブは、ムービングがかなりのウェイトを占めています。

他に、舞台で光を発するものとしては、レーザーやLEDパネルがあります。LEDパネルは武道館ライブの舞台背面、直角二等辺三角形ツアーの舞台床面などで使われています。これらは、僕達「舞台照明」とは違う専門領域で、僕もその知識はほとんどありません。

ムービングライトは、名前の通り動くライトですが、光の色を高速に変えられるというのもその特徴の一つです。一つの光源の色が黄色から青に、そして白にと、パッパッと切り替わっているライトを見つけたら、それはムービングです。一方、一般照明は基本的には固定的にはめられたフィルターの色の光を、つけ消しすることができるだけで、一台の光源の色が変わることは基本的にありません。

Perfumeの3枚のDVD、GAMEツアー、武道館ライブ、直角二等辺三角形ツアーのDVDを見比べると、ムービングの数が次第に増えていることがわかります。GAMEツアーではステージ上の客席向きの三台、武道館では、大画面の左右に縦に四台ずつの八台のムービングが、特に判別しやすいと思います。

これが直角二等辺三角形ツアーになると、ムービングライトの台数が急増します。これは予算の増加を意味します。直角二等辺三角形ツアーDVDで、「エレクトロ・ワールド」のサビ「ワールド 地面が」のあたりを、コマ送り再生してみて下さい。ほぼ一コマごとに光の色が変わる部分が観察出来ます。この素早い色の切り替えはムービングならではです。

2010年11月3日、Perfumeは東京ドームライブを成功させました。僕は、そのライブ会場に行ってこの目でその照明を見る幸運を得ました。その時の照明の構成は、ほぼ「オール・ムービング」でした。一般照明は、客席あてと、エンドステージの数字オブジェタッチだけだったと思います。ピンスポットは、僕の視認が正しければ15本でした。ムービングとピンスポットを中心に構成されたドームライブの照明は、それはとても素晴らしいものでした。でも、その隅っこでちょっとだけ設置された一般照明機材が、僕にはちょっと寂しそうに見え、とてもいとおしく感じました。



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