放射性物質の拡散予測が出てこない理由(推測)

僕はテレビも見ないし新聞も読まないので、世間様の雰囲気はあまり知らないんですが、ネットニュース等を見ていると、「放射性物質の拡散予測がなぜ公式に発表されないのか」という疑問が、だいぶ高まっているようですね。

僕は、この疑問には、ある程度答えられます。もっとも、ネットでこういう不確実な情報は出さないようにという通達もあったと聞きますので、僕がここにこういうことを書くと、僕が利用しているプロバイダに迷惑がかかっちゃうのかも知れませんが。まあでも、僕が以下に書いている内容は、報道などで公開されている情報に基づいて、僕の「理系の頭」で論理的に推論したものですので、デマとかとは違います。僕なりの「推測」です。信じるかどうかは読んだ人の自由です。たぶんそれほど間違ってはいない、という自負はあります。

さて、本題です。

放射性物質の拡散予測を、いまだ、なぜ出せないか。それは、結論から言うと、「わからないから」です。「どこまで公開して良いか意見が分かれてる」とか「パニックを恐れて隠してる」とか、色々と適当なこと言う人がいるようですが、それらはみんな、たぶん違います。本当のところは「わからない」んだと思います。なぜ「わからない」かというと、「まだ火消しの真っ最中」だからです。

たとえば火事で数軒の家が燃えている状況だとして、その消火作業が続いているときに、その消火作業をしてる人に「この火事はどこまで拡がることが予想されますか」なんていう質問は、ちょっと聞きづらいですよね。それでも、仮に頑張って正確に答えようとすれば、「現在の消火作業がうまく行けば、これ以上には火は拡がらない。しかし、消火作業が成功しなければ、どこまで燃え拡がるかわからない」というような答えになるでしょう。

火事にたとえるのはちょっと乱暴かも知れませんが、今の福島原発も、だいたいそんな感じだと思います。福島原発の核燃料は、まだ「火事」の状態で、「収まるのか」「どこまで拡がるのか」という質問には答えられない状況が続いていると思われます。

原子炉(1、2、3号炉)の中心にある核燃料は、現在も非常に高温で、中心部はおそらく二千数百度、溶けて液体になっています。その周囲を、固体を保った燃料が包み、そこに水がかけ続けられている、という状態だと思われます。

で、今は、核燃料に「水をかけている」状態で、上部は空気中に出ているわけです。だから温度が下がらない。これをまず、上部まで完全に「水没した」状態にして、さらに、その水を循環させて、つねに「流水の中にある」状態になって、初めて、一応は安心な状態、すなわち「冷温停止」になるわけです。

外から水をかけ続けるんじゃダメなんです。かけた水は放射能で汚染されますから、捨てられない。だから汚染排水がどんどん増えて貯まっちゃうか、あるいは、蒸発して大気に拡がっちゃう。だからそうじゃなくて、汚染された水を外に出さず、ぐるぐる循環させる必要がある。核燃料に触れて熱せられた水を、パイプで外に引き出して、海水の中を通して冷やす。冷やされた汚染水を原子炉に戻して、また燃料を冷やす。そういう「汚染水の循環」が確保されて、初めて「冷温停止」と言える状態になる。いや、僕も専門家じゃないから知りませんけど、公開されている情報からきちんと推論すると、そういうことなんだと思います。

原子炉が「汚染水の循環」を確保するまでには、まだ何ヶ月もかかると予想されています。その間に起こり得る、「最悪の事態」としては、まず、核燃料を内側で密閉している構造(原子炉圧力容器)が、溶けた燃料の高熱で破れて密閉が保たれなくなる。さらに、それを囲む外側の密閉構造(原子炉格納容器)に水素ガスが充満し、それが爆発(水素爆発)して、放射性物質が一気に周囲に飛散するという状況、これが想定される一番「最悪の事態」で、万が一そうなったら、ほぼ「チェルノブイリ」です。チェルノブイリでヨーロッパ全体の汚染が問題になったように、今度は東アジア全体の汚染が問題にされる。「消火活動」がうまくいかないと、最悪、そういうことは起こる、それが「完全には否定できるとは言えない」というのが、今の状況、だと思います。

いっぽう、現在行なっている作戦が最もうまく進行した場合は、「今が最悪の状態」で、これからは良くなるいっぽうである、それも十分考えられます。原子炉圧力容器も、格納容器も無事なまま、水の供給・循環が確保されて、最終的に1~3号機のすべてで冷温停止に成功する。格納容器が傷ついている2号機(そのため今は汚染された水が漏れ続けている)についても、その修復ができ、汚染水の流出も止まる。そのように、「すべてが成功する」という可能性も、時間はかかるでしょうが、十分高いと思います。

さて、じゃあ今は、どういう想定をするべきでしょうか。最悪の事態を想定して、原子炉自体が水素爆発で破壊され、内部の放射能が飛散して、東アジアが汚染された場合の「最悪の事態を想定した放射性物質の拡散予測」を、政府は今すぐ出すべきでしょうか。僕はそれはちょっと、どうかと思います。政府発表は、やはり、「確実な予想」にとどめ、「最悪のシナリオに基づく」予測は、いたずらに出すべきではないと思います。「公式」な発表としては。しかし、政府からは自由な立場にある、民間や機関の研究者とかが、「最悪の場合」という但し書きをきちんとつけて、そういう予想を出すのは、当然「あり」だと思います。

でも今回は、そういうのも「なし」、現時点で「はっきりしている」情報だけを、皆さん出すように、と、いう通達が出たようですね。それが、今の政府の方針、ということなんでしょう。そんなことするから、誰も、何も、信じられなくなっちゃったわけです。

みなさん、僕の話も、あんまり簡単に信じちゃダメですよ。

(以上は、原子力はまったく専門外の僕が、まったく個人的に推測したものですので、この文章の記述を、何かの主張の証拠資料にしたりは、決してしないで下さい)


カテゴリー: 社会