「隣にいても一人」@釜山(2)

10日
9時劇場入り。一応「演劇フェスティバル」なのだから、仕込みを手伝ってくれるスタッフは当然いるだろう、という想定で来たのだが、どうもそれらしい人がいない。

朝のミーティングでは、この劇場を担当する先生方(ちなみに劇場は大学の中にある)を紹介された。しかし、どう見ても舞台技術に詳しい人たちには見えない。僕らぐらいになると、プロの舞台スタッフかどうかは顔つきでわかるのです(同類を見分ける能力)。

「照明の吊り込みをする人はいますか」と尋ねると、先生のお答えは「図面を見たところ、簡単な仕込みなので学生達に吊らせます」とのこと。やがて二人の学生が来て吊り込みが始まる。でもまあ、結局大学生なので、大学生レベルの仕事なわけです。バトンを一本ずつおろす。学生達が機材を吊って、僕がフィルターを入れる「フィルターは全部入りましたか」と尋ねるから「入りました」と答えると、いきなりバトンをアップし始めた。おいおい、回路はとらないの? 「どのライトをどの番号に差せば良いか指示が無かったので」。うあ、そのレベルか。僕の頭の中のスイッチが、「プロ現場モード」から「ワークショップモード」に切り替わる。「図面で、線でつながっているやつは同じチャンネルになります。だから、線でつながってない物を同じ回路に差してはダメ」。という説明じゃわからないよね。全部番号を僕が決めてあげました。学生が質問「上手のあれと、下手のこれは、対称だから、同じ番号ではダメですか?」。だからダメだっつってんだろ、とは言わなかったけど、とにかく、手取り足取りって言う感じ。

さて、劇場内に見えてるライトを数えると、フレネルが7台ほど足りない模様。機材表と実数が違うことは、よくある話。凸は余っているようなので、フレネルの一部を凸+ディフュージョンに変更しようかな、と思ったけど、一応その前に学生に尋ねる「フレネルが足りないみたいなんだけど」。すると「倉庫にあります」。あ、そうなの、じゃあ変更無しで、1サスは予定通りフレネル17台を仕込みましょ。

次に吊る2サスの分のフレネル7台がちょうど無い。倉庫に取りに行った学生がなかなか戻ってこない。どんだけ遠い倉庫なんだ? と思っていると手ぶらで戻ってきた学生が言う。「いま倉庫で先生がフレネルを修理していますので、あと30分ぐらいかかります」。おいおい、最初からわかってれば凸に変更するのに。「修理が難しいようなら、一部の仕込みを凸に替えても良いんだよ」「あ、そうですか、では先生に確認して来ます」。

またしばらく戻ってこない。気長に待っていると、今度は、重そうな、ぜんぜん違うタイプのフレネルを持って来はじめた。「これが今4台あります。それと、このフレネルは直したので使えます。今あと2台直してますので...」ちょっと待て。違うタイプを混ぜてどうする。フレネルなら何でも良いって話じゃねえんだよ。

「色々な種類の機材が混ざるよりは、一部を凸に変更する方が良いです。1サスの、これとこれを、凸に変更します。その分のフレネルを、2サスに吊ります」。「本当にフレネルじゃなくて大丈夫なんですか? 申し訳ございません」。「大丈夫、大丈夫、問題ない。はい、1サスおろして」。

そんなこんなで、たった35台の吊り込み(しかもすべて電動昇降サス)に、3時間以上。

調光卓は、EVOLITES社の「PEARL 2004」という、純然たるムービング卓。なんでこんな卓を入れちゃうかなぁ。ムービングが一台も無い劇場にムービング卓入れてどうすんのよ。僕だって使い方わかんないし。

先生にお願いする。「キューを打ち込んで操作したいので、19時からのリハーサルの時には、この卓に詳しい人にいて欲しいです」。すると先生の表情が曇る「...このコンソールは、元々ショーを作るためのものなので、限界もあります」。「ショー」って何だ? なんだか雲行きが怪しい。これはひょっとして...おそるおそる質問してみる「このコンソールでキューを打ち込める人は、いますか?」。「...いません」。うあー、最悪だ。こんな面倒な卓の使い方を、自分で手探りで今から把握しないといけないのかぁ。ネット上にマニュアルがないか、検索してみる...見つからない。先生の持ってるその分厚いマニュアルは...韓国語だ。僕の韓国語力ではとても読解できない。

とりあえず、一対一でパッチしてあるようなので、回路番号のフェーダーをあげて照明を一つずつ点灯することはできるから、フォーカスまでは可能だ。しかし、本番となると、シーンを組んでおいてグランドマスターで操作? しかも「隣にいても一人」は4シーンあるから、間の暗転(約15秒)で次のシーンをスピード手組みか? しかもパッチのやり方もわかんないからこのバラバラのフェーダー番号で? いや、それはいくらなんでも危険すぎる。せめてサブマスターの記憶のやり方ぐらいは解明する必要がある。

そんな、先行き不安の中、とにかくお昼ご飯にしましょ。ということで、日本チームみんなで教職員食堂で昼食。優しい味。おいしくいただきました。

午後。字幕のセッティングをちゃっちゃと済ませて、照明フォーカス。そういえばさっきから、先生がマニュアル片手に卓を色々いじっている。この人、19時までにどうにか自分が卓を扱えるようになろうと頑張っているらしい。

フォーカスをしている頃、最強の通訳、我らがイ・ホンイ、劇場入り。

フォーカス終了後、さっきの先生が「キューの入力方法がわかりました」と言う。ホンイを介して、先生の説明を聞く。なるほどなるほど、しかしそれにしてもずいぶん複雑な手順だ。チャンネルのレベルもテンキーで打たないとだめなのか。フェーダー使えないの? とても実用になる手順ではない。うーむ、この先生にできるのはここまでだな。しかたない、先生に教わった手順を出発点に、自分で卓を色々いじって機能を少しずつ把握していくしかない。

卓と格闘すること、およそ3時間。フェーダーによるレベル入力、サブマスターの記憶方法、タイムの入れ方、前のキューと自動的につなぐ方法などを発見していく。そしてついに、パッチの方法を見つけた。ああ、これでだいぶ楽になる。すべての方法が解明した時点で、夕食。

夕食を終えてすぐに卓へ戻る。場当たり前にどうにか仮のデータ入力を完了。ふう。ギリギリだが追いついた。

場当たりは順調に進み、この日の内に最後まで終了。

退館後、みんなでサムギョプサル。

帰り道のコンビニで再びチャミスル・オリジナルを一瓶購入。またしてもそれを部屋で一人で八割がた飲んでしまう。
フラフラに酔っぱらって就寝。


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