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1.劇場下見


最初は劇場下見の話から始めます。普通はその前に、「劇団から照明を依頼される」「劇団の体質をさぐる」「劇団員と顔合わせをする」などの段階がありますが、私は事実上青年団の専属です(というか劇団員です)ので、その辺りの話は割愛させていただきます。

さて、その辺りを割愛して最初に来るのが「劇場下見」であることに注意して下さい。「台本を読む」でも「稽古を見る」でもないのです。青年団に限らず、多くの劇団は台本脱稿や稽古開始よりも前に、往々にして演目も決定していない段階で、劇場だけは先に決まっています。結果的に大抵の場合は、どんな芝居をやるか決定していない段階で劇場の下見を行うことになります。

下見には必ずカメラを携行します。劇場下見はだいたいが本番の何カ月も前に行いますから、写真に撮っておかないと「忘れちゃう」んです。で、以下に述べる下見過程の随所で、「ちょっと多いかな」と思うくらいに写真を撮っておきます。私の場合、一つの劇場の下見で20〜30枚の写真を撮ります。

劇場に着いたらまず、入ってすぐの位置で立ち止まり、劇場全体の広さ(印象としての)を見ます。私の照明は「広い劇場は明るめ、狭い劇場は暗め」という原則がありますので、第一印象の広さを見ておくことは重要です。そして後で印象としての広さと図面上の広さを比べて「実際よりも広く(狭く)感じる」ということを考えながら、仕込の規模を調整することになります。

次に、どこに照明を仕込めるか(また既に仕込んであるか)を、劇場全体にわたって見ます。可能性のあるところは全部チェックします。この時、ライトを設置できるかということだけでなく、もしそこに設置した場合、「電気はどこから引っぱるか」を同時に見ることが重要です。大抵の劇場はコンセントの場所が記された図面があるものですが、できるだけ自分の目で確かめるようにします。

そして、調光卓等の設備・総電源容量・機材数などをざっと見ます。これらについてはだいたい資料があるものなので、いちいち機材を数えたりはしません。むしろ機材の劣化の度合いや保管状態に注意して、不良品や故障品がどれくらい混入しているかを推定します。

その他、非常口誘導灯の位置や数、脚立やシュート竿があるかどうか、インカムはあるか等をチェックします。前述の機材の状態などもそうですが、チェックは書き留めるのではなく、できるだけ写真にとるようにします。後になって予期していなかった疑問が出たときなど、写真をとっておくと思わぬ発見をできたりして大変重宝します。ビデオはおすすめしません。見るのに時間がかかるのと、何よりも決定的に解像度が低いからです。

最後に図面や資料をもらって下見は終わりです。余裕があれば劇場の外観を撮影しておきます。


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