その具体的方法ですが、まず私自身は客席のやや後方に座ります。なぜ後方かというと、後ろの方が一般に照明的な条件が悪いからです。客席の前の方だと役者の顔も良く見えるし、明るさのバランスが多少悪くてもあまり気になりません。明かり作りをするのは、照明ができるだけ悪く見える位置が望ましいので原則として後ろの方に定位置を取ります。
明かり作りにはスピードが要求されます。私が舞台稽古を見ながら、あるシーンで照明のバランスが悪いと判断したら瞬時にその悪いポイントの照明の明るさを修正する、という作業の繰り返しです。つまり、私が要求したら即座に調光卓のフェーダーが動く、という状態が必要です。最も理想的なのは、私の手元に調光卓を置くことです。しかし、ハードウェア的な制限があるため、舞台稽古の時に私の手元(客席)に調光卓を置くことができる会場はあまり多くありません。多くの会場では調光卓は調光室と呼ばれる特別な部屋に固定設置されています。そこで、通常は助手に調光室に入ってもらい、客席の私と無線で連絡をとりながら明かり作りをする、という形態になります。
幸い、今の私には、非常に優秀な助手(青年団の劇団員で職業照明家でもある)がいますので、この調光室サポートをいつも頼んでいます。ちなみに彼女は劇団「桃唄309」の照明プランナーでもあります。
話を戻します。さて、「照明のバランスをとる」とはどういうことかと言いますと、基本的には「青年団の照明の作り方4」で述べた「岩城DOS」に則ったものになります。つまり、劇中での役(者)のコミュニケーションの方向/量と、照明の方向/量を一致させる、という作業です。このように、役(者)のコミュニケーションが照明の重要な要素になっているわけですから、舞台稽古で役者が実際に動いて会話している場で明かり作りを行わないと意味がないわけです。
そして、舞台稽古が最後のシーンに近づく頃は、照明のバランスが完成し、演出家の意図する空間の使い方と、私の作った照明のバランスとが整合します。そこまで行ったら、その劇場における「青年団の照明」は基本的に完成であり、照明プランナーとしての私の仕事はほとんど終わりです。