青年団字幕演出システム

青年団は、演劇用の独自の字幕システムを所持しています。正式名称は「青年団字幕演出システム」です。これまで、青年団の海外公演で現地の言葉の字幕を出したり、外国のカンパニーを日本に招聘した際に日本語字幕を出したり、など、様々に活躍の機会を得ています。「青年団字幕演出システム」は、青年団が独自に開発した演劇字幕専用のアプリケーションで、市販ソフト(たとえばPowerPoint)のテンプレートの類ではありません。Visual C++ 開発環境で作られた、独立のアプリケーションです。僕自身も、主にインターフェース部分で開発に参加しました。

演劇の字幕公演では、最近では Microsoft PowerPoint が使用されることが多いようです。PowerPoint はご存じの人も多いと思いますが、プレゼンテーション用のソフトで、文字や画像を「スライド」という形に編集し、それを「投影する」というコンセプトのプログラムです。PowerPoint で字幕を実現しようとする場合、字幕原稿をまず全てスライド化しなければなりません。これは手間はかかるけど特殊な技術や知識はさほど必要としません。また、スライドを作り上げてしまえばオペレーションが非常に簡単です。このような手軽さから、PowerPoint は演劇公演の字幕用として多く使われているようです。

いっぽう、青年団字幕演出システムのコンセプトは、PowerPointのそれとは大きく異なっています。PowerPointはあくまで「スライド投影」を基本コンセプトとしていますので、スライド一枚一枚をレイアウトするのはかなり高度なことができます。しかし、スライド同士は基本的に関連がないため、たとえば、「全スライドの文字の大きさを2ポイント大きくする」といった変更は大変な手間がかかります。その点、青年団システムは、開演から終演までを一つの「字幕表示」としてとらえているので、文字の大きさをちょっと変えたり、表示位置をちょっとずらしたり、ということは一発で可能です。日本語字幕表示を、仮に現場で突然、「横書きから縦書きに変更して」、などという要請があっても短時間で対応することが可能です。もちろん、テキスト内容も簡単に修正できますので、現場で開場時刻ギリギリまでテキストの修正作業が行われることもしばしばです。

ハードウェア構成も独特です。青年団の字幕システムはPC1台だけでは実現できません。操作用と表示用、最低2台のPCが必要です。PowerPoint でも「外部モニタ」で使用するモードがありますが、青年団の字幕システムは、最初から操作用のPCと表示用のPCが独立しています。表示用のPCは単に字幕を表示するだけで、まったく操作されません。その表示は、ネットワークで接続された操作用のPCによってすべてコントロールされます。ネットワークには何台でもPCを接続でき、PC1は英語、PC2はフランス語、といったように、複数言語を同時に表示し、それらを1台のコントロールPCで制御することが可能です(昨秋の新国立劇場ロビーで上演された「東京ノート」ではこの技術が使われていた)。

もう一つ、青年団の字幕システムの優れている点は、表示ターゲットとなる言語を知らなくても(舞台上で発語される言語を聞き取ることができれば)オペレーションができる、ということです。これは、表示PCと操作PCが独立しているからできることで、操作用PCのウィンドウには、字幕表示の言語とは無関係に、オペレーターのネイティブ言語を表示させておくことができるのです。青年団は「東京ノート」を世界中で上演していますが、タイ語・ルーマニア語・フラマン語などの難解な言語の字幕でも軽々と実施できているのは、現地語に堪能なオペレーターを調達する必要が無いからです。字幕表示用のテキストと日本語台詞との対応付けさえできてしまえば、日本人スタッフが字幕操作をすることが可能となります。

その他、100ミリ秒単位で調整可能な自動表示、同時多発に対応した多重表示など、様々な機能が実装されています。青年団字幕演出システムは、演劇用の字幕システムとしては世界でもトップクラスのものと自負しています。

現在アゴラ劇場で開催中の「平田オリザ演劇展」でも、この字幕システムが使われている公演があります。「The Yalta Conference」(「ヤルタ会談」英語版)と、「Le moineau à la langue coupée」(「舌切り雀」フランス語版)です。映画や海外ドラマでの字幕に比べても遜色のない、スムーズな日本語字幕表示により、日本人観客でもごく自然に公演を楽しむことができるはずです。これらの演目、期待していた外国人の観客が、原発事故で皆帰国してしまったこともあって動員が伸び悩んでいるそうです。日本人の皆様にも是非ご来場いただきたいです。二演目とも、気軽に楽しめる、とても楽しい内容です。

The Yalta Conference 「ヤルタ会談」英語版
上演時間30分/出演:英語の堪能な日本人女優2人+アメリカ人女優1人
4月30日18:00、5月7日18:00、10日20:30。

Le moineau à la langue coupée 「舌切り雀」フランス語版
上演時間20分/出演:フランス語の堪能な日本人男優1人
5月8日13:00、11日20:30、15日17:30

チケット料金は、両演目とも 500円です。

カテゴリー: コンピュータ


「平田オリザ演劇展」、まもなく始まります

月曜日から小屋入りして、

平田オリザ演劇展

の照明と字幕を作っています。
主な作品の解説を書きます。解説文は僕個人の独断と偏見が入っており、劇団の公式のものではありません。

チケットは、今急速に売れています。事前購入またはご予約をオススメします。当日券もおそらく出ます。当日券は開演の30分~1時間前ぐらいに来ていただければほぼ間違いなく入手可能と思われます(今のところ)。

走りながら眠れ
出演者2人(男女)、上演時間 1h20m、2500円
大正時代に実在した革命家夫婦の日常を想像で描く。関東大震災の直前の夏。世間と隔絶した価値観を持つ夫婦の、愛と絶望を美しく描く。

ヤルタ会談
主演者3人(日本語版は男女女、英語版は女3人)、上演時間 30m、500円
第二次世界大戦終演間際に、米英ソで戦後処理が協議されたという「ヤルタ会談」を、思いっきりデフォルメしたコメディ。戦後の世界情勢を、ブラックジョーク満載の30分に詰め込んだ。アメリカ公演でも大ウケ。笑いながら世界史の勉強にもなります。英語版は日本語字幕付き。

マッチ売りの少女たち
出演者10人、上演時間 1h50m、2500円
別役実の独特の台詞まわしと、平田オリザの現代口語が、シームレスに混じり合う。コミカルな不条理劇。密度の高い「小劇場演劇」を、じっくりと味わえる。

さようなら
出演者2人?(ロボット1体、女優1人)、上演時間 15m、500円
世界初の「アンドロイド演劇」。大阪大学の石黒浩教授の協力の下、人間そっくりのロボット「アンドロイド」と、白人金髪女優が共演する。静かな小品。

舌切り雀
出演者1人(男)、上演時間 20m、500円
昔話「舌切り雀」を、一人の俳優が、昔の紙芝居さながらに一人芝居で話し聞かせる。元々はフランスの子供向けに作られた。フランス語版(日本語字幕付き)と日本語版あり。


カテゴリー: 日記・近況


「平田オリザ演劇展」照明プラン図面

「平田オリザ演劇展」@こまばアゴラ劇場、明日いよいよ劇場入りです。
明日はこのプランを仕込みます。




カテゴリー: 日記・近況


内閣府原子力委員会に意見を投稿した

内閣府原子力委員会の「国民の皆様からのご意見募集」

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki_oubo.htm

これに投稿しました。

投稿した全文は下記の通り。概要は100字以内、意見本文が800字以内という制限がありました。
この字数制限が、意外ときびしかったです。

名前:岩城 保
年齢:40代
職業:舞台照明デザイナー

意見の概要:
全国の原発を、実験的に期間限定で一時的に一斉に停止してみることを提案します。

意見及びその理由:
今は、原発の価値や効力を、国民全体できちんと検証することが必要だと思います。そのため、全国の原発を、期間を区切って一時的に停止してみることを提案します。そのためには、全国規模の計画停電などが必要になるのかも知れません。しかし、期間限定で実験的に全原発を停止してみて、その結果を全国民で検証してみて得られるものは、一時的な原発停止で失われる諸々の損失を上回ると思います。原発の「廃止」ではなく「一時停止」の提案です。福島の原発周辺住民が大きな負担を強いられている現状、これくらいの実験は、国民も了承してくれるのではないでしょうか。この実験によって、原発を停止することの影響の大小を国民一人一人が実感した上で、再び原発を稼働して現状に戻して議論を続けよう、という提案です。原発推進派も反対派も、この実験的プロジェクトによって失う物は何も無いと思います。是非ご検討下さい。



カテゴリー: 社会


次の仕込みが迫る!

現在、『川と出会い』の公演中ですが、次の仕事である『平田オリザ演劇展』の仕込みが、来週頭に迫っています。『川と出会い』の最終日の翌々日が小屋入り・仕込みです。

『川と出会い』の公演中も、『平田オリザ演劇展』のプランを少しずつ進めています。もうほぼプランはできたんですが、最終段階の機材の振り分けが、まだ少し迷っています。『平田オリザ演劇展』は、大きくわけて6演目あって、その内、2つは全く重ならない=「さようなら」が完全に終わってから「銀河鉄道の夜(リーディング)」の公演があるので、この2演目の機材を使い回そうと考えています。そのためには使い回しに適した、汎用性の高い機材をそこに持ってこないといけない。おまけに、「銀河鉄道の夜」は、稽古がまだ、ろくに始まってもいないので、別バージョン(フランス公演)のビデオを頼りにプランを考えないといけない。その他の演目も、稽古が「川と出会い」の公演と重なってしまって、ろくに見に行けない。だからある程度は勘でプランをして、現場で細かい調整、ということになる。

なかなか難しいところです。


カテゴリー: 日記・近況