2011年09月14日 12:45
「東京ノート」中国済南公演(BeSeTo演劇祭参加)に同行している。
劇場は、事前に写真では見ていたので、派手な飾りプロセニアムがあるということ、そこから客席上部へ電飾が飾られていることなどはわかっていた。しかし、バトン図面や回路図面は、要望したにもかかわらず結局今日まで入手できていない状態であった。ただ、回路図の要求に関しては、主幹とディマーの位置が書かれた図が返ってきていた。
機材リストは、この劇場を私たちの前に使用した別の日本のカンパニー経由で入手していたが、その機材リストが、何というか、いかにも「信用できない」感じなのである。このリストを見てなぜ信用できないと思うかというのは、これはもう「勘」としか言いようがないのだが、少なくとも言えるのは、事前にもらっていた劇場の写真と、機材数があまり整合しない、ということである。
また、回路図の要求に対してディマー位置を返してきたということは、おそらく配線は仮設であることがうかがえる。設備工事としての回路配線は無く、ボーダーケーブルなどで仮設でだいたいの回路が引っ張ってある(アトリエ春風舎はこの方式である)ことが予想される。
そんな状態なので、僕の事前判断としてはこれは「仕込図を事前に書いてもたぶん意味がない」ので、一応、材料を準備するための基本プランのようなものは書くけれど、実際の仕込みは現場に入ってすべてその場で対応する、ということとした。
さて劇場に実際に入ってみて、驚いた。パーライトを中心に、シーリング、フロント、ナナメなどが吊られているのだが、どれもひどくホコリをかぶり、ほとんど動かした形跡が無い。配線も、ボーダーケーブルではなく、シングルのコードをつなぎつなぎして、一台一台引き回してある。そして、そのコードの引き方がおそろしく汚い。ぐっちゃぐちゃである。その時に仕込みたい仕込みを、その場で使える近くの配線を使い回して、足りなければ延長して、あるいは使わない機材の配線をバラしてそこのケーブルを持ってきて、などと、好き勝手に仕込み替えを繰り返した結果である。「基本仕込みに戻す」あるいは「いったんバラす」という考え方が無いので、配線が散らかり放題に散らかっている。
さらに、左右の袖中には、天井近くの高さと、SSよりやや高めの高さに、それぞれ前後に単管が通っており、そこに2000Wクラスのムービングライトが上下4台ずつ設置されている。しかしそのムービングライトも、横向きなら横向き、下向きなら下向きのまま、上面にホコリがたまっており、長期間動かした形跡がない。また、多くのパーライトにはカラーチェンジャーが入っていて、チェンジャーの信号線を抜き差しすると、初期動作でフィルターが動いて、ナマで止まるのだが、そこにホコリがたまっている。つまり、これも普段はあまり動かしてないと考えられる。
他に機材があるか尋ねてみると、隣の建物の倉庫に案内された。そこは劇場と同じぐらいの広さもあろうかと思える巨大な倉庫で、中に何が入っているかわからないハードケースが山と積まれている。その中の一つを開け、「これは使って良い」という。見るとソースフォーPARが8台入っている。なるほど。じゃあ他のケースにも同様に機材が入っているのかと開けてみると、他のケースは、空っぽだったり、ケーブルがぐちゃっと入っていたり、フィルターが入れっぱなしのシート枠がドサッと入っていたり、色々である。「これも自由に使って良い」と言われたので見ると、グシャグシャになっている様々な色のフィルターの大判である。
とにかく全体に管理が悪い。悪いというか、管理していない。どこに何があるのかが、ここの人じゃないと全然わからない。仕込みも、配線も、収納もバラバラ、ごちゃごちゃである。そしてそのすべてが、ホコリだらけである。
このようなゴチャゴチャの状態から、まともに計画通りにやろうとするなら、一回すべての仕込みをバラして機材を整理するところから始めないとダメである。しかし、時間的にも人員的にもその余裕はない。そこで、まず、現在仕込まれているライトをつけてみることにする。ぐちゃぐちゃの配線の内、どれが使えるかはわからないが、少なくとも、現状でフェーダーを上げて点灯するものは、ライトからディマーまでの配線が通っているということであるから、配線はその範囲内のものだけを使用しようという作戦である。
結果、PARライト21台、ソースフォー2台、ソースフォーPAR12台の仕込みが完成した。劇場で行われる青年団の本公演としては史上初、凸とフレネルを一台も使用しない仕込みである。地明かりも顔あてもすべてパーライトないしソースフォーPARなので、ゲージをかなり絞り込まないと明るすぎる。すべて40%ぐらいの点灯である。そうすると色が黄色くなりすぎるので、いつもは#B-3を使用するところ、ほとんどのライトに#B-4を入れた。
荒削りの明かりではあるが、全体の出来としては悪くないと思う。
2011年09月08日 15:52
「さようなら」リンツとベルリン、無事に終わりました。二カ所とも、照明の仕込みは極めて単純なものでした。
[リンツ]
サイドのバルコニーにスタンドを上下(かみしも)4本ずつ、計8台。内訳は、
・一番手前(客席側)にフレネル上下各1台の客電
・その隣にフレネル上下各1台のフロント
・舞台の前ラインぐらいに、プロファイル上下1台ずつ、それぞれアンドロイドと女優ネライ
・舞台の奧ラインぐらいに、パーライト上下1台ずつ、それぞれアンドロイドと女優ネライ
今までの「さようなら」は、照明の流れは、
1.アンドロイドがぼーっと見えてくる
2.続いて女優がぼーっと見えてくる
3.両者が明るくなるとともに、舞台全体も明るくなる
*その状態でキープ
4.終演近くに、舞台全体の明かりが落ち、アンドロイドと女優が光で切り離される(両者の間に「黒み」が入る)
5.女優の光が消え、アンドロイドだけが残る
6.アンドロイドの光が暗くなっていき、最後の台詞とともにフェードアウト、暗転
となっていました。しかし、リンツでは、終演の時の変化を少し変えました。
4.終演近くに、舞台全体の明かりが落ち、アンドロイドと女優が光で切り離される(両者の間に「黒み」が入る)
5.女優(眠っている)にあたっている光が増し、キラキラと明るく輝く。一方、アンドロイドの光はサイドからのハイライトが増し、陰影の強い光で輝く
6.女優の光が消え、アンドロイドの輝きだけが残る
7.アンドロイドの光が暗くなっていき、最後の台詞とともにフェードアウト、暗転
つまり、これまでは、開演で明るくなった舞台が、終演で単に暗くなるという流れだったのですが、今回は、終演時に、いったん明るくなって(しかしそれは全体ではなく、両者への絞り込んだネライ明かり)、そして暗くなる、という流れにしました。
終演近くに女優が強い光で照らされる、というのは、この女優の死を象徴しています。教会でやる、と聞いたときに、すぐそれを思いつきました。結果としては、なかなか感動的にできたと思います。
[ベルリン]
使える回路がフロント位置に上下各4回路ずつしかないので、まずフロントに上下それぞれ、プロファイル×1、フレネル×2
残り1回路ずつは、ステージに引き回し、上下ハイスタンドでそれぞれプロファイル各1
ハイスタンドのプロファイルが偶然明るい機材だったので、これをリンツのパーライト的に扱いました。フロントは低くて後ろに影が出ちゃってダメダメだったので、必要最低限の明るさに押さえました。ただし下手の一台は絞り込んでアンドロイドネライにしました。
明かりの流れはベルリンを踏襲しました。
1.アンドロイドがぼーっと見えてくる(上手ハイスタンド)
2.続いて女優がぼーっと見えてくる(下手ハイスタンド)
3.両者が明るくなるとともに、舞台全体も明るくなる(フロント)
*その状態でキープ
4.終演近くに、舞台全体の明かり(フロント)が落ち、アンドロイドと女優が光で切り離される(上下のハイスタンドと、下手フロントのアンドロイドネライ)
5.女優(眠っている)にあたっている光(下手ハイスタンド)が増し、朝日(あるいは夕日)に照らされるように輝く。それとバランスを取るように、アンドロイドの光も少し明るくなる
6.女優の光が消え、アンドロイドの輝きだけが残る
7.アンドロイドの光が暗くなっていき(まずフロントが消える)、最後の台詞とともにフェードアウト、暗転
ベルリンは、天井が低くてやりにくかったんですが、まあ、あそこの会場条件で出来る中では、一応、良い明かりが出来たと思います。
アンドロイド演劇「さようなら」は、この後イタリアのパレルモに向かいますが、僕はここベルリンで離脱、帰国して、「東京ノート」中国公演に参加します。パレルモの照明は演出助手さんががんばります。がんばってね。
2011年09月06日 16:20
数日前にSPAMコメントをつけられて(もう削除しましたが)、それ以来、このブログのアクセスが異常に多くなってます。いつ落ち着くんでしょうか。
さて、アンドロイド演劇「さようなら」で、オーストリアのリンツとドイツのベルリンに同行しています。今回のこのヨーロッパ公演で特筆すべきは、これが本格的な「記録型」上演であるということでしょう。アンドロイドをリアルタイムにバックヤードで女優がコントロールして演技させるのが「遠隔操作型」、それに対し、アンドロイドの動きと声は、事前に記録してあるものを再生し、舞台上の人間の演技はすべてアンドロイドのタイミングに合わせるやり方、これを「記録型」と呼んでいます。
今回は「記録型」なので、アンドロイドの動きは、毎回、まばたきのタイミング等も含め、すべて毎回完全に同一です。そこで今回のリンツ公演では、僕が担当する照明・字幕も、完全自動化を試みてみました。上演中のフェーダー操作はもちろん、マウスクリックさえも上演途中には一切行わない、開演時一発スタートで終演まで自動でつなげるのです。タイミングをプログラムし終えるまでは試行錯誤の連続で手間がかかりましたが、出来上がってしまうと、開演時にスタートしてしまえば、あとはまったく手を触れずに、アンドロイドの動き、声、照明、字幕が、すべて自動的に終演まで進みます。ラストの美しい暗転のフェードアウトのタイミングもスピードも、全部自動。リンツ公演では思いのほかうまく行きました。これは言い換えると、アンドロイド本体、と照明と字幕全体、つまりライト、調光卓、字幕アプリケーション、字幕表示プラズマなどが、全体で一つの「ロボット」を構成している、と見ることができます。舞台上で「生きている」のは、本当に女優(ブライアリー・ロング)たった一人、ということです。
それがどうした、と言ってしまえばそれまでなのですが、今回これをやったということは、ロボット演劇/アンドロイド演劇の発展過程上の一つの成果と考えて良いと僕は思います。
これからベルリン公演ですが、こちらは字幕が無いので、僕の担当は照明だけです。この照明も、全自動でやってみる予定です。
2011年08月30日 5:43
2011年08月19日 15:10
下記は、約二年前の、民主党が政権をとった直後に、僕がとある読者限定ブログに書いた文です。
最近、政局のほうで「大連立」とか言ってるようで、それに関係すると思ったのでここに再掲します。
なお、下記の文の内容は、大きくは間違っていないと思いますが、正しいと保証できるものでもありません。あくまで僕の個人的理解だととらえてください。
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◎「政権交代」の件◎
「政権交代」っていうのは大げさじゃないのか。政権政党名は変わることになるが、所属している政治家は 自民党と民主党で激しく行き来している。だから、「1955年から続いた自民党体制が変わる」っていうの は、あきらかに誇大表現である。
乱暴な言い方をすれば、現在の民主党は、だいたい自民党の旧・田中派である。小沢一郎なんて、旧・田中 派(後の竹下派)の、超重要人物であった。いっぽう、現在の自民党は、おおむね、旧・福田派である。田 中角栄と福田赳夫は、その昔、「角福戦争」と言われるほどに対立していた。が、それも、同じ自民党の内 部の話である。
両派は長い間、政策路線は異なるものの、どうにか協調して自民党を維持させてきた。しかし、1993年の非 自民連立政権の成立あたりから、田中派系(竹下派)の自民党からの流出が始まる。この頃に自民党を離れ て「新生党」とか「新党さきがけ」とかを作った人たち(小沢一郎、羽田孜、鳩山由紀夫ら)が、現在の民 主党の幹部になっている。
その後も田中派系の自民党からの流出は続くのだが、それを決定的にしたのが、福田派系(森派)の小泉純 一郎である。小泉は「郵政改革」を旗印に、旧・田中派系を「刺客」(後に小泉チルドレンと呼ばれる)に よって追い出し、日米同盟重視、軍事増強、官僚弱体化、という超タカ派路線の、新しい自民党を作り上げ た。小泉自身が「自民党をぶっ壊す」と言っていた通り、ここで本当に自民党はぶっ壊れた。そして、この 時に議席を失った多くの元議員が、小泉改革批判を展開し、また一部は民主党にも流れた。そうした結果 が、今回の民主党大勝である。小泉チルドレンは、今回ほぼ全員が落選した。
だから、見かけ上、政権政党の名前は「自民党」から「民主党」に変わるわけだが、実質としては、小泉が ぶっ壊した自民党が、もはや信任されなかったということであって、政治の流れとしては、どちらかという と、「交代」というよりは、「元に戻る」ということに過ぎない、と僕は見ている。
まあだから、あまり極端には変わらないでしょう。とりあえず、このところ続いていた、アメリカへの過度 な追従路線、自己責任論、社会凶悪化妄想、警察力強化論などのコイズミ的なファシズム指向だけは、少し 弱まってほしいと、期待したいものである。
(Mon, 31 Aug 2009 12:09)